さよならバードランド

FROM BIRDLAND TO BROADWAY:Scenes from a jazz life by Bill Crow

さよならバードランド・・・あるジャズ・ミュージシャンの回想
ビル・クロウ著−村上春樹訳−新潮社 1996

CD

FROM BIRDLAND TO BROADWAY:BILL CROW Qartet
TKCV-79306 Venus Records,Inc.1996


ビル・クロウ=普通のジャズ・ミュージシャンのとても素敵な自伝


ジャズ・ミュージシャンによる自伝といえば、マイルスやミンガスのものが有名です。しかし天上天下唯我独尊の彼らですから、面白いけどヒジョーにアクが強いですよね。また、伝記ではビリー・ホリデイやパーカーのものが、波瀾万丈のドラマチックな人生を描いていてこれまた面白いのですが、読んだ後、なにやら重たいものが心に残ってしまいます。

その点、このビル・クロウ著、村上春樹訳による「さよならバードランド」は、楽しく読めるうえに爽やかな読後感で、「ジャズ・ミュージシャンって、なんて素敵で楽しい生き方なんだろう」って思うことうけあいです。そして私の場合、訳者があとがきで願っていたように、この本を読んだ後はたまらなくJAZZを聞きたくなってきました。

作者のビル・クロウは、50年代から60年代にかけてニューヨークのジャズシーンで活躍したベーシストですが、恥ずかしながら、私は名前を知りませんでした。もっともジェリー・マリガンのレコードで演奏だけは聞いてるはずなんですが。ま、いぶし銀というか、目立たないけど通好みのベーシストっていうとこでしょうか。

この本が日本で評判になったおかげで、70歳近くになって出した初めてのリーダーアルバムが本と同名の上記のCD。まあ、この本を読まなければ買うことはなかったでしょうが、聴いてみるととってもいい感じの演奏で、買って損はなかったと思いました。本と一緒で軽く楽しく聴ける大人の雰囲気の演奏です。

文章の語り口や演奏と同じように、このクロウさん、人柄もいい雰囲気なんでしょうね。聞いてるだけで涎が出そうな名前のミュージシャンのエピソードが次から次へと出てくるんですが、人間の見方が実に暖かいんですよ。私生活でとやかく言われるBIRDに対しても尊敬のまなざしをもって描いているし、時代に置き去りにされつつある老ミュージシャン達に対しても同様です。ベニー・グッドマンにだけは、辛辣な意見を述べてますが、そんなことは私の知ったことではありませんし。


村上春樹=普通じゃない訳者の超こだわりの労作

正直に申し上げます。この本を読むまでは、私、村上春樹氏の本を1冊も読んだことがなかったのでありました。そのうえ、こともあろうに、村上春樹様と村上龍を完全に混同していたという無礼の数々平にお赦しをーー。

実は私、この十数年間ほとんどJAZZを聴いてなかったんです。しかし、阪神大震災で壊れた実家を建て直したことと、この本を読んだことがきっかけで、埃をかぶっていたレコードを引っ張り出し、オーディオも一部新調して、JAZZファンとして復活しました。恐らくこのJAZZのページも、「さよならバードランド」という本に出会わなかったら生まれてなかったかもしれません。村上春樹さん、よくぞこの本を翻訳してくださいました。

ビル・クロウの著作を日本語しか読めないわれわれのために翻訳してくれるだけでもありがたい話ですが、それだけではすまないのが村上春樹氏のこだわりの凄さ。巻末に付録として各章に出てくるエピソードに対応した超詳細なレコードガイドがつけてあるんですよ。67ページもあって、これだけでも立派なJAZZの著作といえるでしょう。他にも精力的な仕事を次々とこなしている中、翻訳であろうと手を抜かない丁寧な仕事ぶり、まことに頭が下がる思いです。聞けば、ビル・クロウのもうひとつの著作(JAZZ ANECDOTES)も翻訳中だとか。楽しみにしてますよおーー。


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