なぜか気になるこの1枚vol.39

ジャケットから中身が見える(ピアニスト特集2)

ILLUSION SUITE / STANLEY COWELL


ECM 1026 ST
1972年録音(アナログ)
 チャールズ・トリバーとともにミュージック・インクを結成し、前項で紹介したジョン・ヒックスにその座を譲るまでピアニストを務めたのが、この人、スタンリー・カウエルです。なんで別れたかは知りませんが、トリバーのラッパには、ヒックスよりもこの人のピアノの方が合っていたように思えます。
 さて、彼を表現するときには、よく「知性派」という言葉が使われます。黒い、臭い、濃いの3Kが好みの私にとっては「知性派」ってあんまり好みではないのですが、このアルバムは、好きでしたね。特にジャケットがグーッ!確か邦題は「幻想組曲」といったはずですが、タイトルとよく似合うモノクロの絵の中に、なるほど知性派って感じのカウエルの顔がなかなかいい感じで入っています。
 そして、演奏の方も、タイトル通りの幻想的な雰囲気が、アルバム全編に展開されています。はじめはもっとフリーっぽい演奏をする人と思っていましたが、そうでもなく、美しく躍動感溢れるピアノが聴けます。唐突に現れるエレクトリック・ピアノは、今でこそ違和感が感じられますが、当時は、この音がとても斬新的に聴こえたのであります。dsのジミー・ホップス、bのスタンリー・クラークとのからみもバッチリで、特に、当時脂ののりきっていたS・クラークが聴きものですな。




HOMMAGE / ANDREW HILL


EAST WIND  EW 8017
1975年録音
(アナログ)

 今回のテーマは、ジャケットがいかにもその中身を物語っているようなアルバムのピアニスト特集です。このアンドリュー・ヒルさんも、上記スタンリー・カウエルのように、前衛と伝統の境目に位置する人で、そのユニークさ故か、60年代に優れたアルバムを出しながら、その後はウォルト・ディッカーソンのように半隠遁生活を余儀なくされ、70年代半ばになって突如復活してきたようです。・・・って、これは本当かどうかわかりませんが、当時の私のイメージではそうでした。ですから、日本で企画されたこのソロ・ピアノ集のジャケットは、まさに、「孤高のピアニスト」っていう雰囲気に仕上がっており、私のイメージ通りのデザインに思えて大好きなんであります。
 ジャケットだけでなく、もちろん中身もいいですよ。彼のピアノには、美しさと同時に、モンクのような微妙な「はずし」というか、「間」というか、独特のタイム感覚があって、これがまたそういうのが好きな私には、堪らないのであります。しかもハイチ出身を匂わせるラテン風味も隠し味でちらほら・・・・それがこのジャケットの赤い部分かなと思ったりして、まあ、極めて勝手な思い込みですが、ええ味出してはります。




EVIDENCE OF THINGS UNSEEN / DON PULLEN


BLACK SAINT  BSR 0080
1983年録音(アナログ
 このドン・プーレンさんも、フリーと伝統の良さを併せ持ち、それを苦もなく自分なりに表現できてしまう人です。しかも、上記2人の知的なアプローチに加え、凄まじいヴァイタリティあふれる演奏が聴けるんですから、まさに私好みのピアニストです。僚友ジョージ・アダムズとの双頭コンボのアルバムは既に紹介済みですが、彼自身のアルバムは、私の持っている範囲で言えば何故かソロピアノ集が多いみたいです。その諸作中、内容についてはまあ他にいいものがあるんですが、ジャケットで選べと言われれば当然このアルバムしかないでしょう。彼独特のげんこつや甲を叩きつけるような奏法を、私は残念ながら生のステージで見たことはないのですが、このジャケット写真を見ると、なんか、弾き方が目に浮かびますよねえ。
 中身の方ですが、全編、げんこつぶっ叩き奏法かというと違いまして、リリカルな演奏もあるし、ブラック・ミュージックのルーツにのっとった楽しい演奏も聴けます。なんでも幅広く呑み込み、それを自分なりに消化して、時にはエモーショナル、パワフルに、時にはリリカルにと多彩に表現できる力は素晴らしいものです。G・アダムスとともに、早すぎた死が惜しまれます。